太田玉茗賞
駅
中尾 敏康
駅には
幾千幾万の
ヒトの魂が屯していて
そっと列車に乗り込むのです
魂はぼくたちの心の中に入り
一緒に旅をするのです
だから
ぼくたちは駅に来ると
妙な胸騒ぎを覚えるのです
けれど
ぼくたちは魂を選ぶことはできません
旅が愉快だったり
つまらなかったりするのは
そのためなのです
できればぼくは
あの優しかった祖母の魂を
背中におぶって
旅をしたいと願っているのです
五十年前の
あの日と同じように
待合室の古びた板壁に
茜色の陽があたっています
あの時七歳のぼくは
祖母の背中で
何の夢を見ていたのでしょう